大人の多動症(ADHD)とは?落ち着きのなさや多動性・不注意・衝動性の特徴と受診の目安・診断・治療の流れを精神科医が解説
大人の多動症(ADHD)とは、「不注意」「多動性」「衝動性」という3つの特性が子どもの頃からみられ、大人になっても仕事や生活の困りごとにつながっている状態のことです。生まれつきの脳の働き方の特性と考えられており、本人の努力不足や性格の問題ではありません。
この記事では、大人の多動性の現れ方を中心に、特徴、受診の目安、診断・治療の流れ、支援制度について、亀戸のひびきメンタルクリニックの精神科医の監修のもと解説します。
はじめにお伝えしたいこと 「昔から落ち着きがないと言われてきた」「気をつけてもミスが減らない」と、ご自身を責めてきた方もいらっしゃるかもしれません。その背景に、生まれつきの特性が関わっていることがあります。特性を知ることは、自分に合ったやり方を見つける手がかりになります。
この記事でわかること
- 大人の多動症(ADHD)の定義と3つの特性
- 子どもと大人で多動性の現れ方がどう変わるか
- 仕事や生活での困りごとと、似た状態との違い
- 受診の目安・相談先と診断の流れ
- 治療・支援の選択肢と公的制度
大人の多動症(ADHD)とはどのような特性ですか?
大人のADHDは、不注意・多動性・衝動性の特性が子どもの頃から続き、生活に影響している状態です。
| 特性 | 大人での表れ方の例 |
|---|---|
| 不注意 | 忘れ物やなくし物が多い、締め切りを守りにくい |
| 多動性 | じっと座っているのがつらい、内面がそわそわする |
| 衝動性 | 思いついたことをすぐ口にする、衝動買いをしてしまう |
厚生労働省の情報提供サイト「e-ヘルスネット」では、ADHDは発達障害のひとつとして説明されており、成人でも一定の割合でみられることが報告されています。特性の出方は人によって異なり、不注意が目立つタイプ、多動性・衝動性が目立つタイプ、両方がみられるタイプがあるとされています。
「多動症」「ADHD」「注意欠如・多動症」は同じ意味ですか?
いずれも同じ状態を指す呼び方で、現在の医学的な病名は「注意欠如・多動症」とされています。
- ADHD:英語の Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder の略称
- 注意欠如・多動症:日本精神神経学会「DSM-5 病名・用語翻訳ガイドライン」で示された病名
- 注意欠陥・多動性障害:以前から使われてきた旧称
- 多動症:一般に使われる通称
「多動症」という呼び方から、落ち着きのなさが目立つ人だけを指すと思われがちですが、多動がほとんど目立たず、不注意が中心のタイプもあります。
大人になると多動性はどのように現れますか?
目に見える動き回りは減る一方で、内面の落ち着かなさやしゃべりすぎとして残ることがあるとされています。
| 子どもの頃に多い表れ方 | 大人で見られることがある表れ方 |
|---|---|
| 授業中に席を立つ・走り回る | 会議や長時間の移動でじっとしているのがつらい |
| 手足をもじもじ動かす | 貧乏ゆすりやペン回しなど小さな動きが続く |
| しゃべりすぎる | 相手の話をさえぎる、話し出すと止まらない |
| じっとしていられない | 予定を詰め込みすぎる、休日もくつろぎにくい |
大人になると場面に合わせて行動を抑える力が身につくため、外からは目立ちにくくなるといわれています。その分、ご本人は「ずっと我慢していて疲れる」と感じていることもあります。
ただし、落ち着かなさは疲れや睡眠不足などで誰にでも起こりうるものです。ADHDかどうかは、特性が子どもの頃から続き、複数の場面で生活に支障が出ているかを踏まえて判断されます。
大人のADHDに見られる不注意・衝動性の特徴は何ですか?
不注意はうっかりミスや段取りの苦手さ、衝動性は思いつきの言動として表れやすいとされています。
不注意の特徴の例
- 鍵・スマートフォン・書類などの忘れ物やなくし物が多い
- 締め切りや約束の時間に遅れやすい
- 段取りや優先順位をつけるのが苦手
- 細かい部分の見落としが続く
- 周りの音や考えごとで注意がそれやすい
衝動性の特徴の例
- 思いついたことを、考える前に口にしてしまう
- 衝動買いや、後先を考えない決断をしてしまう
- 列や会話で順番を待つのが苦手
これらは一般的な特性の例で、すべてが当てはまるわけではありません。
仕事や日常生活ではどのような困りごととして表れやすいですか?
ミスの繰り返しや時間・お金の管理、片づけ、人間関係などの場面で困りごとが生じやすいとされています。
| 場面 | 困りごとの例 |
|---|---|
| 仕事 | 同じミスを繰り返す、複数の業務を並行して進めにくい |
| 家庭・生活 | 片づけが進まない、支払いや手続きを忘れる |
| お金 | 衝動買いが重なり、計画的に使うのが難しい |
| 人間関係 | 約束を忘れる、話をさえぎるなどで、恋人・家族・友人との間に誤解が生じやすい |
こうした困りごとが続くと自信を失い、二次的に気分の落ち込みや不安につながることがあると知られています(発達障害情報・支援センター)。
大人のADHDの原因はわかっていますか?
脳の働き方の偏りや遺伝的な要因が関わると考えられていますが、原因はすべて解明されてはいません。
- 脳の働き:計画を立てる・行動を切り替えるといった「実行機能」や、やる気・報酬に関わる仕組みの働き方に偏りがあると考えられています
- 遺伝的な要因:家族の中でみられやすい傾向が報告されており、複数の遺伝的な要因が関わると考えられています
一方で、育て方やしつけ、本人の努力不足が原因ではないとされています(e-ヘルスネット)。ご本人もご家族も、「自分のせい」と抱え込む必要はありません。
大人になってから初めてADHDと診断されることはありますか?
あります。子どもの頃は目立たなくても、進学や就職で求められることが増え、大人になって気づく方もいます。
ADHDは大人になってから新たに生じるものではなく、子どもの頃から特性があったと考えられています。アメリカ精神医学会の診断基準DSM-5では、いくつかの症状が12歳になる前からあったことが診断の要件のひとつとされ、大人の診断でも子どもの頃の様子をさかのぼって確認します。
大人になるまで気づかれにくい背景には、次のようなことが考えられます。
- 不注意が中心のタイプは「おっとりしている」と見られ、目立ちにくい
- 学生時代は家族の手助けや決まった時間割があり、困りごとが表に出にくかった
- 就職・結婚・子育てなどで、自分で管理することが一気に増えた
- うつや不眠などで受診した際に、背景の特性に気づくことがある
セルフチェックで大人のADHDかどうかわかりますか?
セルフチェックは気づきのきっかけにはなりますが、それだけでADHDかどうかを判断することはできません。
WHO(世界保健機関)が関わって作成された成人向けの自己記入式チェックリストなど、目安を知るための道具があります。ただし、これらは医師が診断するときの材料のひとつで、診断の代わりにはなりません。
振り返りのきっかけになる項目の例
- 子どもの頃から「落ち着きがない」「忘れ物が多い」と言われてきた
- 会議や長時間の座り仕事で、じっとしているのがつらい
- 締め切りぎりぎりまで取りかかれないことが多い
- 思いついたことをすぐ口にして、後から悔やむことがある
- こうしたことで、仕事や生活の困りごとが続いている
※この項目は診断ではありません。疲れやストレスでも当てはまることがあります。結果だけでご自身を決めつけず、困りごとが続く場合は医療機関にご相談ください。
ADHDと似た症状の病気や、あわせて見られやすい状態はありますか?
うつ病や不安症、睡眠障害などでも集中しにくくなることがあり、自閉スペクトラム症と併存することもあります。
| 状態 | ADHDと似て見えることがある点 |
|---|---|
| うつ病 | 気分の落ち込みで、集中力や判断力が下がる |
| 不安症 | 不安で頭がいっぱいになり、注意がそれやすい |
| 双極性障害 | 気分が高まる時期に、多弁や落ち着かなさが出る |
| 睡眠障害 | 睡眠不足で、不注意やイライラが増える |
| 甲状腺の病気など | からだの病気で、落ち着かなさや集中しにくさが出る |
また、ADHDは自閉スペクトラム症(ASD)や、うつ病・不安症とあわせてみられることがあると知られています。ご自身で見分けるのは難しいため、医師が経過をうかがいながら総合的に判断します。ASDとの違いは「発達障害(ASD・ADHD)の特性とは?」もご覧ください。
どのようなときに医療機関へ相談するとよいですか?
特性による困りごとが続き、仕事や生活、気持ちの面に負担を感じているときが、相談を考える目安です。
- 仕事や学業に支障が続いている:同じようなミスや遅刻が重なる
- 生活の困りごとが続いている:片づけ・お金の管理・家事がうまく回らない
- 周囲から同じ点を指摘され続けている
- こころやからだの不調がある:気分の落ち込み、不安、眠れないなど
- 工夫しても疲れてしまう:努力しているのに、うまくいかない
「診断がつくかわからない」段階でのご相談でもかまいません。困りごとを言葉にして整理するだけでも、次の一歩が見えてくることがあります。
大人のADHDは何科で相談できますか?
精神科・心療内科が主な相談先です。医療機関以外では、発達障害者支援センターなどでも相談できます。
- 精神科・心療内科:成人のADHDの診察を行っていない医療機関もあるため、事前にホームページや電話で確認しておくと安心です
- 発達障害者支援センター:発達障害者支援法にもとづき、都道府県・政令指定都市などに設置されている相談窓口です
- 精神保健福祉センター:こころの健康全般について相談できる公的な機関です
亀戸のひびきメンタルクリニック(江東区)でも、大人のADHD・発達障害に関するご相談をお受けしており、必要に応じて各種心理検査も行っています。地域での受診については「江東区・亀戸でADHD・発達障害のご相談」で詳しくご案内しています。
大人のADHDはどのような流れで診断されますか?
現在の困りごとと子どもの頃の様子を丁寧にうかがい、診断基準に照らして医師が総合的に判断します。
- 問診:今の困りごと(いつ・どんな場面で)、子どもの頃の様子、これまでの経過をうかがいます
- 周囲からの情報:可能であれば、ご家族など子どもの頃を知る方の情報も参考にします
- 心理検査など:必要に応じて評価尺度や各種心理検査を行うことがあります(実施の有無や内容は医療機関によって異なります)
- ほかの病気の確認:似た症状の病気や、あわせてみられる状態がないかを確認します
- 総合的な判断:DSM-5などの診断基準に照らして判断します
1回の診察で判断がつくとは限らず、何回かの診察や検査を経て見立てをお伝えすることがあります。DSM-5では、17歳以上は子どもより少ない数の症状で基準を満たすとされていますが、症状の数だけでなく、生活への支障の程度も重視されます。
初診の前に準備しておくとよいことは何ですか?
困りごとのメモや子どもの頃の様子がわかる資料を用意しておくと、診察で状況を伝えやすくなります。
- 困りごとのメモ:いつ・どんな場面で・どのくらい困っているか
- 子どもの頃の資料:通知表や母子健康手帳など
- ご家族などからの情報:子どもの頃の様子を書き出してもらう、同伴してもらうなど
- お薬手帳:服用中の薬がある場合
資料がそろわなくても、受診はできます。持ち物や受付時間は「初めての方へ」のページにまとめています。
大人のADHDにはどのような治療・支援の選択肢がありますか?
環境調整、心理社会的な支援、薬物療法を組み合わせ、特性と付き合いながら困りごとを減らすことを目指します。
| 方法 | 内容の例 |
|---|---|
| 環境調整 | 職場や家庭で、作業環境や役割分担を見直す |
| 心理社会的な支援 | 特性への理解を深める心理教育、考え方や行動の工夫を身につける認知行動療法など |
| 薬物療法 | 医師の判断のもとで、ADHDの治療薬を検討する |
治療の目標は、特性そのものをなくすことではなく、特性とうまく付き合いながら生活上の困りごとを減らしていくことと考えられています(e-ヘルスネット)。方法の組み合わせは、困りごとの内容や生活の状況によって異なり、診察のうえで相談しながら決めていきます。
ADHDの治療薬にはどのような種類と注意点がありますか?
大人のADHDに用いられることがある薬は主に3種類とされ、作用の仕方や副作用が異なるため、医師の判断のもとで使います。
以下は一般的な治療薬の説明です。実際にどの薬を使うか・処方できるかは、診察のうえで医師が判断し、医療機関の体制や方針によって異なります。
| 一般名 | 特徴の概要 |
|---|---|
| メチルフェニデート徐放剤 | 中枢神経刺激薬。流通管理の仕組みがあり、登録された医師・薬局でのみ扱われます |
| アトモキセチン | 非刺激薬。効果を判断するまでに一定の期間が必要とされています |
| グアンファシン徐放剤 | 非刺激薬。神経の信号の伝わり方に作用すると考えられています |
- どの薬にも副作用が出る可能性があります(食欲の低下、寝つきにくさ、吐き気、眠気、血圧や脈拍の変化など、薬によって異なります)
- 薬剤の適応年齢や処方・管理の要件(医師の登録制度など)は、公開時点の添付文書と制度に従います。変わることがあるため、処方の際に医師・薬剤師から説明を受けてください
- 自己判断で量を変えたり中止したりせず、気になることは診察時にご相談ください
薬を使うかどうかも含めて、医師と相談しながら決めていきます。
日常生活や職場でできる工夫にはどのようなものがありますか?
予定やタスクを目に見える形にする、物の置き場所を決めるなど、特性に合わせた工夫が役立つことがあります。
日常生活の工夫の例
- 予定やToDoを、手帳やスマートフォンのアプリなど1か所にまとめる
- リマインダーを、出発時刻の少し前に設定する
- 鍵・財布など、よく使う物の「定位置」を決める
- 大きな作業は小さく区切り、1つ終えたら休憩をはさむ
職場での工夫の例
- 指示はメールやメモなど、文字で受け取れるようにお願いする
- 業務の優先順位を、上司と一緒に確認する
障害者雇用促進法にもとづき、事業主には障害のある方への「合理的配慮」の提供が求められています(厚生労働省「合理的配慮指針」)。どこまで職場に伝えるかは、ご本人の希望を大切にしながら考えていくことができます。
大人のADHDで利用できる公的な支援制度はありますか?
医療費の自己負担を軽くする自立支援医療や、障害者手帳、就労支援などの制度を利用できる場合があります。
| 制度 | 概要 |
|---|---|
| 自立支援医療(精神通院医療) | 継続的な通院治療が必要な場合に、医療費の自己負担が軽くなる制度(厚生労働省) |
| 精神障害者保健福祉手帳 | 発達障害も対象に含まれ、一定の状態にある方が申請できます |
| 就労移行支援など | 障害者総合支援法にもとづく、就職に向けた訓練や相談の支援 |
| 障害者雇用 | 主に障害者手帳をお持ちの方を対象とした雇用枠での就職 |
対象となる条件や手続きは、制度や自治体によって異なります。お住まいの区市町村の窓口などでご確認ください。自立支援医療の申請に必要な診断書などは、診察時にご相談ください。
まとめ
- 大人の多動症(ADHD)は、不注意・多動性・衝動性の特性が子どもの頃から続く状態で、努力不足や性格の問題ではありません
- 大人になると多動性は目立ちにくくなり、内面の落ち着かなさやしゃべりすぎとして残ることがあります
- 似た状態を起こす病気もあるため、ご自身で判断せず、医師の診察で総合的に確かめることが大切です
- 治療・支援は、環境調整・心理社会的な支援・薬物療法を組み合わせて検討します
「昔からこうだったから」と我慢し続けてきた方も、特性を知ることで、自分に合ったやり方が見つかることがあります。困りごとが続くときは、亀戸のひびきメンタルクリニックでもご相談をお受けしています。