発達障害(ADHD・ASD)で疲れやすい・体力がないのはなぜ?考えられる5つの理由と対策を精神科医と公認心理師が解説
この記事は、当院のYouTube動画の内容をもとに、精神科医と公認心理師の対談を書き起こし・再構成したものです。発達障害(ADHD・ASD)の方が感じやすい「体力のなさ」「疲れやすさ」について、その背景にある脳や体の働きと、日常でできる工夫を、できるだけやさしくお伝えします。
はじめにお伝えしたいこと 「他の人より疲れやすい」「はっきりした病気は見つからないのに体が弱い」——こうした悩みの背景に、発達障害(ADHD・ASD)の特性が隠れていることがあります。これは怠けているからではなく、脳の特性によって根本的にエネルギーの消費量が異なるためと考えられています。この記事は、当てはまるからといって「発達障害だ」と決めつけるためのものではありません。自分の疲れやすさのパターンを理解し、上手に付き合うヒントにしていただくことが目的です。
この記事でわかること
- 発達障害(ADHD・ASD)の方が疲れやすい・体力がないと感じる5つの理由
- それぞれの背景にある脳や体の働き
- 今日から試せる具体的な対策
- 「鍛えれば治る?」「子どもが疲れやすいときは?」への考え方
前提:「体力がない」のは怠けではなく、脳と体の特性
近年、「1日4時間・週20時間ほどの働き方で体調を崩さずに生きる」といったライフスタイルに共感が集まっています。その背景には、「診断はつかないけれど体が弱い」「他の人より疲れやすい」という悩みを持つ方が少なくないことがあります。
こうした疲れやすさの背景に、ADHDやASDの特性が隠れているケースは多いといわれています。定型発達の人が無意識に省エネでこなしていることを、発達障害の特性がある方は一つひとつ意識して処理しているため、同じ生活を送っても消費するエネルギーが大きくなりやすい——これが「体力のなさ」と感じられる状態の一因と考えられています。
発達障害やADHD・大人の発達障害そのものについては、それぞれのページもあわせてご覧ください。
5つの理由 早見表
| # | 疲れやすさの理由 | ざっくり言うと |
|---|---|---|
| 1 | 感覚過敏による見えない疲労 | 周囲の光・音・においを「フィルタリングできず」受け止めてしまう |
| 2 | カモフラージュ(マスキング) | 「普通」に見えるよう常に気を張り、エネルギーを使い続ける |
| 3 | 判断疲れ(決断疲れ) | 日常の小さな選択の一つひとつに大きなエネルギーを使う |
| 4 | 睡眠の問題 | 寝つきにくさ・眠りの浅さで、休んでも回復しきれない |
| 5 | 自律神経の乱れ・体に力が入りにくい | 姿勢を保つだけでも疲れる。立ちくらみや気圧の不調も |
それぞれについて、以下で詳しく見ていきます。
理由1:感覚過敏による「見えない疲労」
なぜ疲れる?
ASDの方の多くに感覚の感じ方の違いがみられるとされ、ADHDの方にも同様の特性があるといわれています。オフィスの蛍光灯の光、キーボードのタイピング音、香水のにおい、空調の音——定型発達の人が無意識に「慣れ」でフィルタリングしている刺激を、すべて受け止めてしまうことがあります。
あくまでイメージですが、パソコンにたとえると、重いアプリを常に10個同時に起動しているような状態です。本人は普通に過ごしているつもりでも、脳のエネルギーは静かに、しかし大きく消耗していきます。これが「何もしていないのに疲れる」「見えない疲労」の一因と考えられています。
工夫のヒント
まずは、自分がどの感覚に敏感なのかを知り、環境を調整することが第一歩です。
- 聴覚が敏感な場合:ノイズキャンセリング機能つきのイヤホンを使う
- 視覚が敏感な場合:サングラスやブルーライトカットのめがねを活用する
- 刺激の少ない休憩場所を確保し、こまめに「感覚の消耗」から離れる時間をつくる
理由2:カモフラージュ(マスキング)によるエネルギー消費
なぜ疲れる?
社会の中で「普通」に見えるよう必死に振る舞うことを、カモフラージュ(マスキング)と呼びます。定型発達の人が無意識にできることを、まるで外国語を一語ずつ考えて話すように、頭で手順を追って行っているため、膨大なエネルギーを消費します。
- 周りに合わせる:無理に笑う、興味のない話題に合わせる
- 自分を隠す:特性やこだわりを抑え込む
- 頭で考えて乗り切る:過去の経験や知識からルールを引っ張り出して対応する
その結果、帰宅後や週末になると何もできなくなる、いわば「社会的な二日酔い」のような状態に陥ることがあります。
工夫のヒント
- 家族や気のおけない友人の前など、**無理に装わなくてよい「安全な場所」**を持つ
- 「スプーン理論」を活用する。1日に使える気力を「スプーンの数」にたとえ、会議などカモフラージュが必要な場面ではスプーンを多めに使うと意識して、前後に休憩をはさむ
スプーン理論とは:1日に使えるエネルギーを限られた枚数のスプーンにたとえ、行動ごとにスプーンを消費していくと考える方法です。「今日はもうスプーンが残り少ない」と可視化することで、無理をしすぎる前に休む判断がしやすくなります。
理由3:判断疲れ(決断疲れ)
なぜ疲れる?
計画を立てる、優先順位をつけるといった働きは、脳の前頭前野が担っています。この機能に特性があると、日常の些細な判断にも多くのエネルギーを使います。
- ADHDの特性:朝の着替えや食事のメニューなど、定型発達の人が「自動化」できる判断が苦手で、朝の支度だけで午前中分のエネルギーを使ってしまうことがあります
- ASDの特性:決まった手順(ルーティン)を好むため、電車の遅延や急な予定変更などの「想定外」に対処する際、大きなエネルギーを消耗します
工夫のヒント
日常の「判断の数」そのものを減らし、仕組み化することが有効とされています。
- 曜日ごとに着る服や食事のメニューをテンプレート化する
- 持ち物リストを作り、毎回考えずに済むようにする
- 重要な判断は、エネルギーのある午前中のうちに済ませる
理由4:睡眠の問題
なぜ疲れる?
- ADHDの特性:体内時計のリズムが後ろにずれ、眠くなる時間が遅くなりやすい(睡眠相が遅れやすい)ことが知られています。そのため夜早く布団に入っても寝つけず、慢性的な睡眠不足に陥りやすくなります
- ASDの特性:感覚過敏により、布団の肌ざわり、時計の音、わずかな室温の変化などで目が覚めてしまい、睡眠の質が下がりやすいとされています
眠っても回復しきれないと、日中の疲れやすさにつながります。
工夫のヒント
- 基本的な睡眠衛生を整える(寝る1時間前はスマホを見ない、寝室の温度・湿度を一定に保つ など)
- 朝は同じ時間に起きて太陽の光を浴びることで、体内時計のリズムを整えやすくする
- 睡眠の悩みが続く場合は、専門医に相談する。医師の診察の結果、適応があると判断された場合には、薬物療法が検討されることがあります
睡眠の整え方は「睡眠を整えるためにできること」もあわせてご覧ください。
理由5:自律神経の乱れと、体に力が入りにくい状態
なぜ疲れる?
- 体幹の弱さ(低緊張):無意識に姿勢を保つ筋肉の緊張が低く、姿勢を保持するだけでエネルギーを要することがあります。そのため「座っているだけ」でも疲れてしまうことがあります
- 体の動かし方の不器用さ:ASDやADHDでは、運動の不器用さや協調運動の困難を伴う方が少なくないとされています。動作のタイミングが合わず非効率な体の使い方になり、余計に疲労しやすくなります
- 自律神経の乱れ:起立性調節障害(朝起きたときの立ちくらみ)や、気圧の変化による頭痛などの体調不良が起きやすくなることがあります
工夫のヒント
- ハードな筋トレやジョギングよりも、ヨガ・ストレッチ・散歩など、自律神経を整え体幹にやさしく効く運動を取り入れる
- 水分や塩分をしっかりとり、急に立ち上がらないようにする
- 立ちくらみや頭痛などの症状が重い場合は、内科や循環器内科などの受診も検討する
よくある質問
鍛えれば疲れやすさは改善しますか?
運動によって「体幹の弱さ」はある程度整うことがあります。ただし、感覚過敏やカモフラージュによる「脳の疲労」は、筋力では解決しにくいと考えられています。大切なのは、自分の疲労の原因が「身体的な問題」なのか「脳の情報処理の問題」なのかを見きわめ、それに合った対策をとることです。
子どもが疲れやすいとき、親はどう対応すればよいですか?
「怠けている」と決めつけないことが、最も大切です。顔色が変わる、口数が減る、イライラし始める——こうした「エネルギー切れのサイン」を一緒に見つけ、そのサインが出たら「もう少し頑張れ」ではなく「休憩しようか」と声をかけてあげてください。学校とも連携して、休憩しやすい環境を整えることも役立つとされています。
まとめ
- 発達障害(ADHD・ASD)の方が感じる「体力のなさ」には、脳の特性・自律神経・筋肉の働きなど、はっきりとした理由が考えられます
- (1)感覚過敏 (2)カモフラージュ (3)判断疲れ (4)睡眠の問題 (5)自律神経の乱れ・低緊張——複数が重なっていることが多いといわれています
- 「自分が弱い、悪い」と責めるのではなく、自分のペースや疲労のパターンを理解し、上手に付き合うことが大切です
- 困ったときは無理をせず、専門家にご相談ください
疲れやすさや生活のしづらさが続くときは、一人で抱え込まず、当院でもご相談をお受けしています。ADHD・大人の発達障害については「【動画解説】大人のADHDとは?特性との付き合い方を医師が解説」もあわせてご覧ください。