チック症・トゥレット症候群とは?症状の特徴とADHDとの関連を精神科医と公認心理師が解説
この記事は、当院のYouTube動画の内容をもとに、精神科医と公認心理師の対談を書き起こし・再構成したものです。映画をとおして発達障害と関連する疾患を知るシリーズの一本として、映画『アマデウス』に描かれたモーツァルト像を題材に、チック症・トゥレット症候群の症状の特徴と、ADHDとの関連について、できるだけやさしくお伝えします。
はじめにお伝えしたいこと この記事で取り上げるモーツァルトの描写は、あくまで映画作品の中で描かれたものです。実在の人物を診断したり、後世から病名を当てはめたりすることを目的とした記事ではありません。また、チックやADHDの特性がある方が必ず特別な才能を持つ、という趣旨でもありません。特性の見え方や困りごとは人によって大きく異なります。「変わった人」と受け取られやすい行動の背景に何が起きているのかを、一緒に考えるための記事としてお読みください。
この記事でわかること
- チック症とはどのような症状か(運動チック・音声チックの具体例)
- トゥレット症(トゥレット症候群)と診断されることがある状態
- 映画『アマデウス』の描写から考える、チックとADHDの特性
- ADHD・ASDとチック症が併存しやすいとされる背景
- 「マインドワンダリング」と発想力の関係
- 周囲の人ができること、受診を考える目安
チック症とは
チックとは、本人の意思とは無関係に、急に体の一部が動いたり、声や言葉が出たりする症状のことをいいます。「わざとやっている」「癖だから直せる」と受け取られてしまうことがありますが、自分の意思でコントロールしているものではない、という点が大きな特徴です。
短期間で目立たなくなることもあれば、長く続くこともあるとされています。緊張や疲れ、不安が強いときに出やすくなることがあるともいわれています。
運動チックと音声チック 早見表
| 種類 | どんな症状? | よくみられる例 |
|---|---|---|
| 運動チック | 体の一部が突然動く | 頻繁にまばたきをする/首を振る/肩をすくめる/顔をしかめる |
| 音声チック | 声や言葉が突然出る | 咳払い/うめき声/同じ言葉を繰り返す/突然の発声や笑い |
音声チックの中には、意図せず乱暴な言葉や不適切な言葉が出てしまう症状(汚言症)がみられる場合もあります。これも本人が言いたくて言っているわけではなく、症状として起こるものと考えられています。周囲がその点を知っているかどうかで、本人の生きづらさは大きく変わってきます。
トゥレット症候群とは
運動チックと音声チックの両方がみられ、一定期間持続する場合に、トゥレット症(トゥレット症候群)と診断されることがあります。
ただし、実際にどのような状態にあたるかは、症状の種類・出方・経過、そして生活へどの程度影響しているかなどを踏まえ、医師が診察のうえで総合的に判断します。症状の名前を自分で当てはめることよりも、「今の生活でどんなことに困っているか」を整理することのほうが、相談の第一歩としては役立ちます。
映画『アマデウス』の描写から考える
『アマデウス』は、モーツァルトと同じ時代に活躍した宮廷音楽家サリエリを主人公とした映画です。信仰心があつく勤勉なサリエリの前に、型破りで奔放なモーツァルトが現れ、その才能への嫉妬と葛藤が描かれていきます。
この作品の中のモーツァルトには、チックやADHDの特性を思わせる描写がいくつも出てきます。以下は、映画の描写をもとに特性を説明したものであり、実在のモーツァルトを診断するものではありません。
音声チック・運動チックを思わせる描写
- 場面にそぐわない突然の高笑いを繰り返す
- 下品な言葉づかいが目立つ(当時はこうした冗談が流行していたという指摘もあります)
- 顔や手足が勝手に動いているように見える場面がある
こうした振る舞いから、当時から「変わった人」「おかしな人」と受け取られることが多かったといわれています。
ADHDの3つの特性を思わせる描写
ADHD(注意欠如・多動症)には、大きく3つの特性があるとされています。映画の中の描写と重ねると、次のように整理できます。
| ADHDの特性 | 特徴 | 映画で描かれた様子 |
|---|---|---|
| 不注意 | 集中が続かない、忘れ物が多い、片づけが苦手 | 部屋が散らかっている |
| 多動性 | じっとしていられない、そわそわして落ち着かない | 場面を選ばずよく動き、落ち着かない様子 |
| 衝動性 | 思いついたらすぐ行動する、先を考えずに使ってしまう | お酒の飲みすぎ、計画性のない散財 |
ADHDそのものについては「ADHD・大人の発達障害」のページや、「江東区・亀戸でADHD・発達障害のご相談|受診の目安と診察の流れ」もあわせてご覧ください。
ADHD・ASDとチック症の関連
チック症は、ADHDやASD(自閉スペクトラム症)といった発達障害と併存することがあると考えられています。動画では、ADHDの50%以上でASDが、ASDの20%程度でチック症が併存するという研究データが紹介されています。それぞれが無関係の症状ではなく、重なり合って現れることがあるということです。
背景としては、ドパミンなどの神経伝達物質のはたらきのバランスが関係していると考えられています。このバランスが乱れると、衝動的な行動や注意の持続の難しさが生じやすくなり、あわせて無意識の動きや発声も起こりやすくなるのではないか、と説明されています。
発達障害の特性については「発達障害」のページや、「発達障害(ASD・ADHD)の特性とは?見られることがある5つの傾向」もあわせてご覧ください。
マインドワンダリングと発想力
ADHDの特性と関連が深いものとして、マインドワンダリングという状態があります。目の前の課題から意識が離れ、頭の中でさまざまな思考が次々に飛び交っている状態のことです。
| 側面 | 起こりやすいこと |
|---|---|
| 難しさ | 集中が続きにくく、目の前の作業の効率が下がりやすい |
| 持ち味 | 既存の枠にとらわれない自由な発想やアイデアが生まれやすい |
映画の中のモーツァルトは、ほとんど推敲することなく一気に曲を書き上げていきます。次々と新しい旋律が浮かんでくる思考のスピードと、思いついたことをすぐ形にする行動力が、結果として作曲の量と速さにつながっていた——という見方が、動画では紹介されています。
ADHDに関する研究では、マインドワンダリングの傾向が高い人ほど独創的なアイデアを生みやすいとする報告もあるとされています。ただし、これはあくまで傾向についての話であり、特性がある方が皆こうした力を発揮するというものではありません。
苦悩の側面も見落とさないために
映画では、モーツァルトが白い目で見られたり、誤解されたりする場面が繰り返し描かれます。当時は発達障害やチックという概念そのものがなかったため、「風変わりな人」として受け取られ、周囲に理解されにくかったのではないかと考えられます。
これは過去の話に限りません。現在でも、チックやトゥレット症候群、発達障害の特性がある方が、周囲の誤解によって生きづらさを抱えることは少なくないといわれています。行動の表面だけを見て評価しないという姿勢は、今も変わらず大切です。
周囲の人・ご家族ができること
- わざとしているわけではない、という前提を共有する
- 「やめなさい」と指摘し続けない。指摘によって緊張が高まり、かえってつらくなることがあります
- 疲れや緊張、環境の負担が重なっていないかを一緒に見直す
- 学校や職場に、必要な範囲で状況を伝えられるよう相談先を確保する
- 生活に支障が出ている、本人の不安が強いときは、専門の医療機関に相談する
周囲の接し方については「発達障害(ASD・ADHD)の特性とは?見られることがある5つの傾向」でも触れています。
受診と治療の考え方
症状があるからといって、必ず治療が必要になるわけではありません。生活への影響の程度や本人の困りごとに応じて、対応の方針は変わってきます。
動画の中では、精神科医として大切にしている考え方として、次のような話が紹介されています。特性は困りごとの原因になることがある一方で、その人の持ち味とつながっていることもあります。だからこそ、特性を一律に「なくすべきもの」と決めつけず、目の前の方の持ち味を損なわないかを常に考えながら治療を検討する必要がある、という視点です。
一方で、症状によって本人がつらい思いをしていたり、生活に支障が出ていたりする場合には、我慢を続けるのではなく、理解したうえで必要なサポートや治療につなげることが大切とされています。治療の要否や内容は、診察のうえで医師が判断します。まずは、現在のお困りごとやこれまでの経過をお聞かせください。
よくある質問
チック症は自分の意思で止められますか?
本人の意思とは無関係に起こる症状であり、意思の力で止められるものではないと考えられています。一時的に抑えられることがあっても、その後に強く出たり、抑えること自体が大きな負担になったりすることがあるといわれています。周囲が「わざとではない」と理解しておくことが、本人の負担を減らすうえで役立ちます。
子どもにチックの症状が見られたら、すぐに受診したほうがよいですか?
チックは、子どもの時期に一時的にみられ、自然に目立たなくなることも少なくないとされています。ただし、症状が長く続く、生活や学校生活に支障が出ている、本人がつらさを感じている、といった場合には、早めに医療機関へご相談ください。判断に迷うときも、相談していただいて構いません。
チックがあると、発達障害でもあるということですか?
そうとは限りません。チック症とADHD・ASDは併存することがあるとされていますが、どちらか一方だけがみられることもあります。診断は、症状の経過や生活状況、発達歴などを踏まえて医師が総合的に判断します。
まとめ
- チックとは、本人の意思とは無関係に体が動いたり声が出たりする症状で、運動チックと音声チックに大きく分けられます
- 運動チックと音声チックの両方がみられ、一定期間持続する場合に、トゥレット症(トゥレット症候群)と診断されることがあります
- チック症はADHDやASDと併存することがあり、神経伝達物質のはたらきのバランスが関係していると考えられています
- 映画『アマデウス』のモーツァルト像には、チックやADHDの特性を思わせる描写が多く見られますが、これは作品の中の描写であり、実在の人物を診断するものではありません
- 特性は困りごとの原因にも、持ち味にもなり得ます。周囲がまず否定せず理解することと、必要なときに相談できる場につながることが大切です
気になる症状やお困りごとがあるときは、一人で抱え込まず、当院でもご相談をお受けしています。発達障害の特性による日常の疲れやすさについては「発達障害(ADHD・ASD)で疲れやすい・体力がないのはなぜ?」もあわせてご覧ください。