ギャンブル依存症は「意志の弱さ」ではない?脳の報酬系の仕組みと発達障害・精神疾患との関連を精神科医と公認心理師が解説
この記事は、当院のYouTube動画の内容をもとに、精神科医と公認心理師の対談を書き起こし・再構成したものです。「気づけばスマホゲームに課金し続けていた」「家族に隠れて通ってしまう」——そんなときに知っておきたいギャンブル依存症の仕組みと、発達障害(ADHD・ASD)やほかの精神疾患との関連、回復に向けたアプローチについて、できるだけやさしくお伝えします。
はじめにお伝えしたいこと ギャンブル依存症は、予備軍を含めると国内に約275万人いるといわれています(動画内で紹介した推計です)。人に相談しづらいテーマであるぶん、一人で抱え込まれやすい状態でもあります。この記事は、当てはまる項目があるからといって「依存症だ」と決めつけるためのものではありません。早めに気づき、適切な相談につなげるためのヒントにしていただくことが目的です。
この記事でわかること
- ギャンブル依存症が「意志の弱さ」ではなく脳の仕組みの問題と考えられている理由
- ギャンブル依存症になりやすいとされる人物像と、よくある誤解
- 発達障害(ADHD・ASD)とギャンブル依存症の関連性
- 依存のリスクを高めるとされる双極性障害・うつ病との関係
- 認知行動療法や自助グループなど、回復に向けたアプローチ
ギャンブル依存症とは
ギャンブル依存症とは、ギャンブルを自分でコントロールすることができなくなり、その結果として日常生活や社会生活に大きな支障をきたしてしまう状態のことをいいます。
大切なのは、「ギャンブルが好きでついやってしまう」状態とは質的に異なるという点です。ギャンブル依存症では、ギャンブルをしたいという欲求を自分の力では抑えられなくなり、食事の時間すら惜しんでのめり込む、負けると分かっていてもつい手を出してしまう、といったことが起こるとされています。
好きだからやっているのではなく、脳がギャンブルを求めている状態——これがギャンブル依存症の本質と考えられています。
早見表:ギャンブル依存症をめぐる誤解と実際
| よくある誤解 | 実際に考えられていること |
|---|---|
| 意志が弱い人がなる | 繰り返しの刺激で脳の報酬系の働きが変化し、自制が効きにくくなると考えられている |
| お金にだらしない人がなる | 責任感が強い、几帳面、真面目な性格の方が陥ることも少なくないとされている |
| 特別な人だけがなる | 脳の仕組みに関わることなので、誰にでも起こりうると考えられている |
| ギャンブルが好きな人がなる | 好き嫌いではなく、コントロールを失っているかどうかが問題とされている |
なぜやめられなくなるのか:脳の報酬系とドーパミン
ギャンブルは、人間の脳の「報酬系」と呼ばれる仕組みに深く関係しているといわれています。
強い快感が脳に記憶される
「勝てるかもしれない」という期待や、実際に勝ったときの大きな興奮によって、脳内にはドーパミン(快感や幸福感に関わる物質)が通常の活動よりはるかに多く分泌されるとされています。
刺激に慣れ、より大きな賭けを求めるようになる
これを繰り返すうちに、脳はその刺激に慣れていきます。同じ快感を得るために、さらに大きな賭けやリスクを求めるようになっていくと考えられています。アルコールや薬物と同じように、脳そのものが変化していく現象と説明されています。
ストレスや退屈が引き金になる
問題なのは、ギャンブルで得た快感が非常に強力であることです。ストレスや退屈を感じたときに、脳が「またあの快感を味わいたい」と強く求めるようになり、自力では抜け出しにくくなっていくとされています。
なりやすい人物像についての誤解
ギャンブル依存症は「お金にだらしない人がなるもの」と思われがちですが、実際にはそうとは限りません。ギャンブル依存症の状態にありながら、お金の管理に厳しい方もいます。
動画のなかでも触れているとおり、依存症の状態にある方は、基本的にはむしろ真面目で、責任感が強く、几帳面な方が多いのではないかと指摘されています。「自分はそういうタイプではない」と考えず、生活に穴をあけてしまう、予定をキャンセルしてしまうといった心配事が少しでもあれば、一度立ち止まって状況を見直していただきたい段階といえます。
発達障害(ADHD・ASD)とギャンブル依存症の関連性
発達障害は、生まれつきの脳の機能の偏りによって生じるもので、代表的なものに自閉スペクトラム症(ASD)と注意欠如・多動症(ADHD)があります。ASDは他者とのコミュニケーションや感情の共有が難しかったり、特定の行動や感覚に敏感であったりすることが多く、ADHDは衝動性や不注意が目立ちやすいとされています。
なお、発達障害の特性があれば必ずギャンブル依存症になるというわけではありません。あくまで、リスクが高まりやすい面が指摘されているという点にご注意ください。
ADHD(注意欠如・多動症)の場合
- 衝動的な行動を取りやすいため、ギャンブルの刺激にはまりやすいといわれている
- じっとしているのが苦手で、常に新しい刺激を求める傾向があり、ギャンブルの興奮と結びつきやすいと考えられている
- 衝動をコントロールすることが苦手なため、いったん始めると歯止めがかかりにくいことがある
- 注意が散りやすく、計画的にお金を管理することも苦手なため、散財や借金につながりやすいとされている
ギャンブル依存症とADHDの関連については、これまでにも複数の報告があるとされています。
ASD(自閉スペクトラム症)の場合
- 特定の行動や対象に強いこだわりが出やすい特性がある
- 一度ギャンブルに興味を持つと、ルールや確率などを極端に突き詰め、深くのめり込んでしまう可能性があると考えられている
発達障害の特性については「発達障害」「ADHD・大人の発達障害」のページや、「発達障害(ASD・ADHD)の特性とは?見られることがある5つの傾向」もあわせてご覧ください。
依存のリスクを高めるとされるほかの精神疾患
依存症は、発達障害以外の精神疾患とも関連することがあります。動画では、特に注意しておきたい2つを取り上げています。
双極性障害(躁うつ病)
気分が高揚し開放的になる躁状態のときには、万能感を持ちやすくなるといわれています。リスクよりもリターンを過大に評価してしまい、無謀な賭け金をつぎ込んでしまうケースがみられます。躁状態のときにギャンブルのリスクが高まりやすい点は、知っておきたいポイントです。
詳しくは「双極性障害」のページもご覧ください。
うつ病
うつ病の方は、将来への希望を失っていたり、生きる気力が低下していたりすることがあります。その辛い気持ちを紛らわせる手段として、ギャンブルの快感に向かってしまうことがあるとされています。
詳しくは「うつ病」のページもご覧ください。
こうした精神疾患を抱えている方は、ギャンブル依存のリスクが高まりやすいことを知っておくことが大切です。もとの精神疾患の治療と並行して、ギャンブルについても相談していくことが望ましいと考えられています。
回復に向けたアプローチ
「完治」よりも「回復」を目指す
ギャンブル依存症は、適切なサポートを受けながら回復を目指していける状態と考えられています。一方で、「完治」という概念を当てはめるのは難しい面があるとされており、コントロールを続けていく「回復」という捉え方が基本になります。回復には時間がかかることも少なくありませんが、適切な治療や支援によって新たな一歩を踏み出していけると考えられています。
認知行動療法
ギャンブルに対する欲求を管理するためのスキルを学び、再発を防ぐための考え方や行動のパターンを身につけていく心理療法です。
自助グループへの参加
依存症は孤独になりやすい状態です。同じ悩みを持つ仲間と体験を共有し、互いに支え合いながら回復を目指せる場として、自助グループへの参加が重要とされています。ギャンブル依存症の自助グループは、インターネットで検索すると各地の情報を見つけることができます。
早めに相談する
ご自身やご家族がギャンブル依存症で悩んでいる場合は、一人で抱え込まず、精神科やメンタルクリニック、自助グループなどに相談してみることが大切です。病院に限らず、信頼できる人に話す、近くで相談できるところを探してみる——そうした小さな一歩から始めていただければと思います。
よくある質問
ギャンブル依存症は、意志が弱い人やお金にだらしない人がなる病気ですか?
いいえ。本人の意志の強さや性格の問題ではなく、繰り返しの刺激によって脳の報酬系の働きが変化し、自分でコントロールすることが難しくなる状態と考えられています。むしろ責任感が強い方、几帳面な方、真面目な方が陥ることも少なくないとされています。
発達障害があると、ギャンブル依存症になりやすいのですか?
発達障害があれば必ず依存症になるわけではありません。ただし、ADHDの衝動性や刺激を求めやすい特性、ASDの強いこだわりの特性が、ギャンブルの刺激と結びつきやすい面があると指摘されています。ギャンブル依存症とADHDの関連については、これまでにも複数の報告があるとされています。
家族がギャンブルをやめられないようです。どう対応すればよいですか?
本人を責めたり、意志の力だけでやめさせようとしたりするのは難しいことが多いとされています。依存症は治療や支援の対象となる状態であることを理解し、精神科・メンタルクリニックや自助グループなどの相談先に早めにつながることが勧められています。ご家族だけで抱え込まないことも同じくらい大切です。
まとめ
- ギャンブル依存症は意志の弱さや性格の問題ではなく、脳の報酬系の働きが変化することで自制が効きにくくなる状態と考えられています
- 「お金にだらしない人がなる」は誤解で、真面目で几帳面な方が陥ることも少なくないとされています
- ADHDの衝動性や刺激希求、ASDの強いこだわりといった特性は、ギャンブルの刺激と結びつきやすい面があると指摘されています
- 双極性障害の躁状態やうつ病の苦しさも、ギャンブルへの依存リスクを高めるとされています
- 回復には認知行動療法や自助グループ、専門機関への早めの相談が有効とされています
ギャンブル依存症は、決して特別な人だけがなるものではなく、誰もが向き合うことになる可能性のある課題です。「自分のことかもしれない」「家族や友人がそうかもしれない」と感じたときは、まず小さな一歩として、相談してみてください。当院では、依存の背景にある発達障害の特性やうつ・不安などについて診療を行っています(依存症に対する専門的な治療が必要と考えられる場合には、専門の医療機関や相談機関をご案内することがあります)。
依存に関するテーマは「アルコール依存症の症状の特徴と治療法とは?進行の4つのステージと発達障害との関連」もあわせてご覧ください。