アルコール依存症の症状の特徴と治療法とは?進行の4つのステージと発達障害との関連を精神科医と公認心理師が解説
この記事は、当院のYouTube動画の内容をもとに、精神科医と公認心理師の対談を書き起こし・再構成したものです。「最近お酒の量が増えてきた」「家族の飲酒が気になる」——そんなときに知っておきたいアルコール依存症の進行ステージと危険なサイン、よくある誤解、発達障害(ADHD・ASD)との関連について、できるだけやさしくお伝えします。
はじめにお伝えしたいこと 日本のアルコール依存症の患者数は約100万人、予備軍を含めると約440万人にのぼると推計されていますが、実際に治療を受けているのは約8万人にとどまるといわれています。背景には、自覚を持ちづらいことや、「特別な人がなる病気」という誤解があると考えられています。この記事は、当てはまる項目があるからといって「依存症だ」と決めつけるためのものではありません。早めに気づき、適切な相談につなげるためのヒントにしていただくことが目的です。なお、本記事中の患者数などの数値は、動画内で紹介された推計です。
この記事でわかること
- アルコール依存症が進行する4つのステージと、各段階で現れやすい危険なサイン
- 「意志が弱いからなる」など、アルコール依存症への3つの誤解
- 発達障害(ADHD・ASD)とアルコール依存症の関連性
- 治療の考え方と、家族ができること
前提:「依存」そのものが悪いわけではない
「依存」という言葉は日常会話でもよく使われますが、何かに頼ること自体が悪いわけではありません。誰にも頼らずに生きることが精神衛生上健康的というわけでは、決してないからです。
問題になるのは、やめたいのにやめられず、生活に支障が出ている状態です。ここまで進むと、それは意志の問題ではなく、治療の対象となる「依存症」という病気の域に入っていると考えられています。
進行4ステージ 早見表
アルコール依存症は一夜にして起こるものではなく、段階的に進行していくと考えられています。本記事では症状の進行を理解しやすくするため、便宜上4つの段階に分けて説明します(医学的に定められた正式な分類ではありません)。実際の経過には個人差があり、必ずしもこの順番どおりに進むとは限りません。
| ステージ | 状態 | 危険なサインの例 |
|---|---|---|
| 1. 飲酒量の増加・耐性の形成 | 徐々に量が増え、より多くの量が必要になる | 飲む時間が待ちきれない/飲まないと眠れない |
| 2. ブラックアウト(記憶障害) | 飲酒中の記憶が抜け落ちる | お酒が原因の人間関係のトラブル/悪寒・震えなどの軽い離脱症状 |
| 3. 精神依存 | 心の安定にお酒が欠かせなくなる | 迎え酒の常態化/朝からの飲酒/飲酒量を隠す |
| 4. 本格的な身体依存 | 飲まないと日常生活が成り立たない | 連続飲酒/幻覚や肝機能異常などの重い離脱症状/生活の破綻 |
ステージ1:飲酒量の増加と耐性の形成
どんな状態?
最初の段階では、飲酒量が徐々に増えていきます。アルコールに対する「耐性」ができてくるため、同じ酔い心地を得るのに、より多くの量を必要とするようになるといわれています。
危険なサイン
- 飲む時間が待ちきれない。仕事帰り、家に着く前にお酒を買ってすぐ飲んでしまう
- 飲みたくて落ち着かない
- 飲まないと眠れない
「眠れないからお酒を飲んで寝ている」という方は少なくありませんが、アルコールは睡眠の質をむしろ悪くするといわれています。眠っているようでいて休息になっておらず、さらに飲酒に頼る悪循環に入りやすい点に注意が必要です。睡眠の悩みがある方は「睡眠を整えるためにできること」もあわせてご覧ください。
ステージ2:ブラックアウト(記憶障害)
どんな状態?
飲酒量がさらに増えると、飲酒中の記憶が抜け落ちる「ブラックアウト」と呼ばれる状態が起こることがあります。問題行動を起こしていても、本人は自覚できていないことが多いとされています。
危険なサイン
- 飲むたびに記憶をなくし、お酒が原因で人間関係が悪化していく
- アルコールが抜けると、悪寒や震えなど風邪のような症状(軽い離脱症状)が現れることがある
離脱症状が出るのは、体がアルコールのない状態で落ち着かなくなってきているサインと考えられています。
ステージ3:精神依存
どんな状態?
この段階では、心の安定やストレス解消のためにお酒が欠かせない存在になります。飲まないと不安やストレスを解消できず、生活がアルコール中心に組み立てられるようになっていくとされています。
危険なサイン
- 迎え酒が常態化している(二日酔いをお酒でしのぐ)
- 朝から飲み始める
- 自分の飲酒量を隠すために嘘をつくようになる
ステージ4:本格的な身体依存
どんな状態?
アルコールが体に完全に定着し、飲まないと日常生活そのものが成り立たなくなっていく段階とされています。
危険なサイン
- 仕事上の重大なミス、家族との衝突など、飲酒が原因の問題が繰り返し起こる
- 飲み続けないといられない連続飲酒
- 幻覚や肝機能の異常など、重い離脱症状や体の異常が現れることがある
- 家庭生活・日常生活を送ることが難しくなる
ここまで進む前に、1つでも当てはまるサインがあった時点で、一度医療機関への相談を考えていただきたい——というのが動画内でお伝えしていることです。
アルコール依存症への「3つの誤解」
誤解1:「昼間から路上で飲んでいる人だけがなる」
実際には、会社員の方が水筒にお酒を入れて出勤するなど、一見普通の社会生活を送りながら依存症に陥っている「隠れ依存症」のケースが多いといわれています。外から見えないぶん、本人も周囲も気づきにくいのが特徴です。
誤解2:「大量にお酒を飲む人だけがなる」
飲酒量も無関係ではありませんが、それ以上に大事なのは「自分の意思でコントロールできているか」です。今日は飲まないつもりだったのに飲んでしまう、1杯だけのつもりが止まらなくなり毎回泥酔してしまう——こうした状態は、量にかかわらず依存症の兆候と考えられています。臨床的には「お酒によるトラブルがあり、自分では止められない状態」がアルコール依存症のイメージに近いといえます。
誤解3:「意志が弱いからなる」
アルコール依存症は、本人の性格や根性の問題ではありません。継続的なアルコール摂取によって脳の神経伝達物質が変化することで起こる、進行性の脳の病気と考えられています。飲み続ければ誰でもなる可能性があり、意志の強さだけで解決できるものではないとされています。
発達障害(ADHD・ASD)とアルコール依存症の関連性
アルコール依存症と発達障害の関連については、これまでにも複数の報告があるとされています。発達障害の特性がある方は、社会生活や対人関係でストレスを抱えやすく、そのストレスの対処としてアルコールなどに頼りやすい面があるといわれています。
ADHD(注意欠如・多動症)の場合
- 衝動的な行動を取りやすい特性から、飲酒にブレーキがかかりにくいことがある
- 脳内のドーパミンの働きが不安定なため、それを補う「自己治療(セルフメディケーション)」のような意味合いでお酒に頼りやすいと考えられている
ASD(自閉スペクトラム症)の場合
- 特定の行動や物質に固執しやすい特性がある
- 感覚過敏や対人コミュニケーションの困難さから生じる社会的ストレスを、和らげる手段としてアルコールに向かいやすいと考えられている
- 一方で、「飲まない」と決めたら全く飲まない方もいるなど、両極端になりやすい傾向も指摘されている
予防のためにできること
本人だけでなく、家族や周囲の人も発達障害の特性を正しく理解し、ストレスを軽減できるサポート環境を整えることが、依存症の予防につながると考えられています。特性への対処を専門の機関に相談することも、アルコールに頼らない対処法を増やすことにつながります。
発達障害の特性については「発達障害」「ADHD・大人の発達障害」のページや、「発達障害(ASD・ADHD)の特性とは?見られることがある5つの傾向」もあわせてご覧ください。
治療の考え方
まずはアルコール依存症の治療を優先する
アルコール依存症は、うつ病や不安障害など、他の精神疾患を併発していることが少なくありません。その場合でも、依存状態が続いていると他の疾患の治療の妨げになるため、まずアルコール依存症自体の治療を優先することが望ましいとされています。
治療の選択肢
- 専門機関での入院治療
- 薬物療法
- 自助グループ(断酒会やAA〈アルコホーリクス・アノニマス〉など)への参加
- 家族の支援
治療の方法は1つではなく、決して1人で立ち向かうものでもありません。特に家族の支援は治療において重要とされています。
よくある質問
お酒をたくさん飲む人でなければ、依存症にはなりませんか?
飲酒量以上に「自分の意思でコントロールできているか」が重要と考えられています。飲まないつもりだったのに飲んでしまう、飲み始めると止まらない——こうした状態が繰り返されるなら、量が多くなくても注意が必要とされています。
アルコール依存症は意志が弱い人がなる病気ですか?
いいえ。継続的な飲酒によって脳の神経伝達物質が変化して起こる、進行性の脳の病気と考えられています。意志や根性だけで解決できるものではないため、専門機関への相談が勧められています。
家族がアルコール依存症かもしれません。どうすればよいですか?
本人を責めても解決は難しいことが多いとされています。依存症は治療の対象となる病気だと理解したうえで、専門の医療機関や相談機関に早めに相談してください。治療には家族の支援が重要とされる一方で、ご家族だけで抱え込まないことも大切です。
まとめ
- アルコール依存症は、(1)飲酒量の増加・耐性の形成 → (2)ブラックアウト → (3)精神依存 → (4)身体依存と段階的に進行すると考えられています
- 「特別な人がなる」「大量に飲む人だけがなる」「意志が弱いからなる」はいずれも誤解で、コントロールを失っているかどうかがポイントとされています
- アルコール依存症と発達障害の関連については複数の報告があるとされ、特性によるストレスへの対処としてお酒に頼るうちに進行してしまうことがあるといわれています
- 危険なサインに心当たりがあるときは、1人(ご家族だけ)で抱え込まず、早めに専門機関に相談することが大切です
生きづらさの対処としてお酒に頼ることは、誰にでも起こりうることです。「自分には関係ない」と思わず、気になるサインがあれば早めにご相談ください。飲酒の悩みの背景にある発達障害の特性やうつ・不安などについては、当院で診療を行っています(依存症の専門的な入院治療等が必要と考えられる場合には、専門の医療機関をご案内することがあります)。