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近年問題になってきている「男性更年期障害」


うつなど心の病についての認識は、まだまだ十分であるとまではいえないものの、確実に社会に広がってきていると感じます。私のクリニックにも働き盛りの男性がうつのような症状を訴えて訪れる機会が増えてきました。しかし、よくよく話を聴いてみると、実際にはうつではなく、「男性更年期障害」と判断されるケースも増えてきました。
男性更年期障害はまだまだ社会の認知が十分ではなく、最悪の場合には自殺にまで至るリスクをはらんでいるにもかかわらず、自分がそうだと気づかぬまま症状に苦しんでいる人は非常に多いものと推測します。今回の記事では近年問題になってきている男性更年期障害について詳しく見ていくことにします。


「男性更年期障害」とはどのようなものか



男性更年期障害を発症する人は50~60代にもっとも多いとされていますが、それよりも早く、30~40代で発症するケースも散見されるようになってきました。
具体的な症状は程度によって異なりますが、相対的に軽症の場合は以下のようなものが特徴的とされています。

  • ・イライラや体のほてり
  • ・性欲の低下、ED
  • ・体重の増加、メタボリックシンドローム
  • ・慢性的な不眠

  • ここから悪化し重度のものになっていくと、次のような症状が見られるようになります。
  • ・めまいや耳鳴り、動悸
  • ・抜け毛の増加
  • ・関節や筋肉に痛み、全身の倦怠感
  • ・記憶力の低下、集中力の低下
  • ・不安などうつの症状


精神的な症状はうつと重なる部分も非常に多いのですが、男性更年期障害では身体的な症状がより顕著に見られる点に特徴があります。初期の段階では希死念慮(死にたいという気持ちになること)は見られませんが、放置すると最終的にはうつへと進んでいきますので、できるだけ早い段階で専門医の診断を受けて、適切に対処することが必要になってきます。この機会にぜひ、男性更年期障害の恐ろしさをご理解ください。


「男性更年期障害」になる原因は何なのか


 直接的には、男性ホルモンの一種である「テストステロン」の分泌量が減少することで、男性更年期障害になりやすいと言われています。テストステロンとは、身体的には男性的な骨格や筋肉などを形づくったり、性機能を高めたりする役割を持ち、精神面ではしっかりと自分を主張する、記憶力や判断力といった認知能力等に大きな関りがあります。前項で見た身体的症状がテストステロンの減少によって生じることがお判りいただけると思います。

一般に、テストステロンは20代でもっとも分泌量が多く、年齢とともに減少していくとされていますが、個人差や環境的要因の影響が大きく、一口にまとめることはできません。最近ではストレスによってテストステロンが大きく減少するリスクが指摘されていますが、ストレス要因の多い現代の日本で男性更年期障害が増加していることとも一致しています。生活環境の問題に関しては後述しますが、ストレスに対してしっかりとアンテナを張って、自分を守っていくことが、男性更年期障害の防止にもつながることは明らかです。

「若年性男性更年期障害」について


 先ほど、男性更年期障害は50~60代でもっとも多く発症するとお伝えしましたが、実際には30~70代という非常に幅広い年代で生じています。30~40代の、まさにこれからが働き盛りの世代で発症する場合を「若年性男性更年期障害」と呼んで区別しています。
 生活環境やストレス環境等による違い、遺伝的な個人差による部分が大きく、若いうちに発症する原因までは残念ながら特定できていません。それでも、現実にそのようなケースが増えてきていることは事実であり、十分にそのリスクを念頭に置いておくことが重要です。「まだ若いから」「更年期障害って年をとってからでしょ」、そのように安易に考えていると次第に症状は悪化していき、本物のうつへと至る恐れを決して看過することはできません。若さを理由に放置することのないようお願いいたします。

なお、若年性更年期障害であってもテストステロンを補充することで症状は改善します。しかしながら、うつと見誤って抗うつ薬を投与してしまうと、むしろテストステロンの値を下げてしまう恐れがありますので、専門医による正確な診断が必要になってきます。


「若年性更年期障害」は女性にも見られる


 更年期障害の低年齢化は女性にも多く見られるようになってきています。女性の更年期障害とは、加齢により卵巣の働きが低下することで起こる、エストロゲンというホルモンの分泌量の低下が原因です。その結果、ホルモンバランスが大きく崩れてしまい、心身両面で症状が出てくるわけです。閉経する前後の約10年間を更年期と呼び、一般には40~50代がそれに該当するとされます。しかしながら、近年では20代後半から30代といった若い世代にも更年期障害の症状が見られるようになりました。
若い世代でエストロゲンが減少する、ないしは、ホルモンバランスが崩れてしまう理由はストレス等による自律神経の乱れることにあるとされています。男性の場合と同様、日々の生活のなかで多くのストレス要因にさらされた結果、自律神経、そしてホルモンバランスを崩してしまう。「更年期障害」という名前に引きずられ、自分には関係ないと思うことなく、更年期障害をうかがわせる症状に気がついた場合には、早期の対処が必要になってきます。20~30代であっても更年期障害は他人事ではない。女性の方々にもその認識をぜひ持っていただきたいと考えています。

「男性更年期障害」の防止とアルコールの関係



 ここまで、男性更年期障害の危険性、ならびに、女性にも見られるように、更年期障害が低年齢化している実態についてお伝えしてきました。

男性更年期障害を防止するためには、テストステロンを増加させる生活習慣をしっかり身につけることが重要になってきます。具体的には、ジョギングやウォーキング、さらにはヨガや水泳とうった軽く汗ばむ程度の運動を継続的に行うことが一番です。ですが、過度な運動は逆効果ですので、その点はぜひご留意ください。

次に重要なのが睡眠を十分に確保することです。一般には7時間程度が理想的であると考えられていますが、個人差がありますので数字にこだわる必要はありません。大切なのは朝起きたときに強い眠気を感じないこと、昼間に眠くならないことの2点です。これらを念頭に置き、ご自身に合った睡眠時間を見つけてください。

最後に意識していただきたいのが食べ物です。レバーやバター、うなぎ(ビタミンA)、じゃがいもやブロッコリー、オレンジ(ビタミンB)、さらには、卵やアボカド、オリーブオイル(ビタミンC)等といった抗酸化ビタミンを含んだ食材を摂取することが大切です。日々の食事にぜひ取り入れていただきたいところです。

なお、アルコールの摂取についてご質問をいただくケースが少なくありません。たしかに、働き盛りの男性であればお酒を飲む機会も多いでしょうし、お酒がストレスの解消方法とおっしゃる方も少なくありません。結論から申し上げると、適量であれば飲酒はOKです。リラックスした状態には男性ホルモンの分泌を活発にする効果もあります。

適量のアルコールとは、ビールなら500ml缶1本、日本酒は1合、7%の酎ハイであれば350ml缶1本、ウイスキーはダブル1杯とされています。これを超える量のアルコールは症状を悪化させることにつながりますので厳禁とお考え下さい。もちろん、お酒の強さにも個人差がありますので、弱いという自覚がある人は上記よりも少ない量でお願いします。

こうした生活習慣を心がけてもなお不安がある場合には、迷わず私たち専門医のもとを、できるだけ早めに訪れて下さい。男性更年期障害に苦しむ人が一人でも減ることを、そして快適な人生を取り戻すことを心から願っています。