「燃え尽き症候群」のリスク~特に働く女性が気をつけるべき理由~

「燃え尽き症候群」とは

「燃え尽き症候群」とは、熱意を持って仕事などに取り組んでいた人がある瞬間から突然、何かが燃え尽きてしまったかのように熱意や意欲を失くしてしまう状態のことをいいます。「バーンアウトシンドローム」などと表現される場合もあります。かつては正式な医学用語ではありませんでしたが、数年前に改訂された国際疾病分類(ICD-11)のなかではじめて定義が記載されました。端的にまとめると、「管理が行き届かない慢性的な職場ストレスによって、健康状態に影響が出ること」が燃え尽き症候群であると考えられています。
特にコロナ禍以降はリモートワークが進展するなど働き方が大きく変化し、それに伴いストレス要因も増加しています。今回の記事では、相対的には女性にリスクが高いとされる燃え尽き症候群について詳しく見ていくことにします。

「燃え尽き症候群」へと至るプロセス

燃え尽き症候群へと至るプロセスは大きく3つに分けることができます。

①情緒的消耗感燃え尽き症候群の最初の段階に登場するのが情緒的消耗感です。これ、身体の疲れとは明らかに別物で、「心(情緒)が疲れ果ててしまった=消耗してしまった」と感じる状態を指します。今までやりがいを感じていたことが色あせて見えはじめます。

②脱人格化情緒的消耗感の次に生じる状態を脱人格化と呼びます。この状態に陥ってしまうと、日々のコミュニケーションのなかでイライラする場面が多くなります。以前とは異なり周囲への配慮などもできなくなっていきます。

③個人的達成感の低下
さらにそのまま仕事等を続けると、当然のことながらアウトプットの質が大きく低下し、それによって周囲からの評価も低くなります。その結果、やりがいや達成感を見失い、自己否定の感情が強くなってしまいます。
上記のいずれかに該当する症状を自覚した際には、燃え尽き症候群の恐れがある、または既に陥っている可能性がありますので、専門医への受診が必要になってきます。

どんな仕事が「燃え尽き症候群」に陥りやすいのか

一般論にはなりますが、自分の感情を抑制して顧客対応をしなければならない仕事では、燃え尽き症候群のリスクが相対的に高いといわれています。具体的には、顧客に対して対面サービスを行う機会の多い接客業・サービス業が該当します。どんなに心が疲れていても、笑顔や明るい声を要求される仕事を続けていると、メンタル不調へと陥るリスクが高まり、特に顧客の要求レベルが高くなっている昨今では燃え尽きの恐れが増しています。

コロナ禍以降の変化

さらにコロナ禍以降は、働き方の変化に伴って、接客業やサービス業以外でも燃え尽きるリスクが高まってきています。その要因を大きく3つに分けることができます。

①労働時間が不規則になった
リモートワークにはよい部分も多く存在しますが、大きなデメリットの1つが、時間が不規則になる点です。業務時間という概念が薄くなったことで上司からの連絡が夜遅く届くなど、常に緊張を強いられることが燃え尽きを起こしやすくしています。

②職場の人間関係が希薄になった

同じ場所で働く時間が大幅に減ったことで、コミュニケーションの機会が失われました。コロナ禍以前は仲間に愚痴をいうことでストレスを解消することもできましたが、今はそれも難しくなり、心の消耗が生じやすくなっているといえます。

③仕事に対する負担感が増した
もともとハードな仕事をしていたところに、上記のような状況が重なることによって、仕事に対する負担感が大きく増しています。心が負担を感じれば感じるほど、消耗度は高まり燃え尽きのリスクも増加します。とても厳しい時代になっています。
燃え尽き症候群は仕事に対する評価が正当に得られない場合にもリスクが高まりますが、上記の要素はどれも評価に対する不満につながるおそれを含んでいます。本人はもちろん、管理する側にも高い意識が求められているといえます。

特に女性に「燃え尽き症候群」のリスクが高い理由

「燃え尽き症候群」が生じるリスクは特に女性に高いといえます。その理由は、ここまで述べてきたこととも重なるのですが、大きく2つに分けて考えることができます。

①接客業やサービス業に従事している女性が多い接客業・サービス業では多くの女性が働いています。その分だけ、自らの感情を抑制し、心の消耗を招いている女性が非常に多くいるものと考えられます。最近ではカスタマーハラスメントのリスクも社会問題化していますが、その被害に遭いやすいのも相対的に立場の弱い存在である女性であるといえます。

②社会のなかで女性の活躍がまだまだ進んでいない世界と比べて、日本ではまだまだ女性の活躍が進んでいません。仕事における負担感の多さ=達成感の少なさや、組織内のコミュニケーションにおける立場の弱さ等によって燃え尽き症候群のリスクが高くなっているわけです。

③期待される役割が非常に多いよき妻、よき母親、よきビジネスパーソン。日本では男性が仕事中心の人生をまだまだ許されている一方で、女性には非常に多くの社会的役割が与えられています。こうした負担感がストレスの要因となり、燃え尽き症候群のリスクを高めていきます。
これらの事実を踏まえて、女性だけが注意するのではなく、男性側にもまた意識を高める努力が必要なのだといえます。社会全体で協力し「燃え尽き症候群」などのメンタル不調を減らしていく。そのための努力が今非常に重要になってきています。

「燃え尽き症候群」へと陥らないために

「燃え尽き症候群」へと陥らないために、ここでは大きく3つの観点を示します。どれも非常に重要なポイントですので、ぜひ心に留めていただきたいと思います。

①業務量の偏りが起こらないように配慮するこれは職場やその管理者が意識すべき点ですが、特定の従業員や女性従業員に負担感が増していないかどうかをしっかりとチェックする必要があります。リモート環境下では見えない部分も多くありますが、だからこそ意識の持ち方が大切になってきます。

②休憩時間をしっかりと確保する業務時間という概念が希薄になったことで、熱意を持って仕事に取り組む人ほど休憩を軽んじる傾向が見られます。自分では大丈夫と思ってもあえて休憩時間を十分に取る。それが転ばぬ先の杖となって心の消耗を防いでくれます。

③コミュニケーションの機会を意識的に増やすリモートワークが進展した今だからこそ、全員が意識してコミュニケーションの機会を増やします。仲間たちとの接点が消耗を押さえてくれるケースが少なくありませんので、自分の心を守るためにも積極的に機会を作っていきましょう。
以上、ここまで「燃え尽き症候群」について詳しく見てきました。くり返しになりますが、特に女性のみなさんは相対的にリスクが高い状況にあることをぜひともご理解ください。自分の心にもっとやさしく、ときにはもっとわがままに、消耗を防いでほしいと考えます。それでも状況が改善しない場合には、私たち専門医を頼ってください。何より、スピードが命です。自分のことを最優先に、人を頼る勇気をもっていただきたいと切に願います。