「ヤングケアラー」とは何か
みなさんは「ヤングケアラー」という言葉を耳にしたことはありますか?
近年、ヤングケアラーの存在は社会問題化しており、適切な支援を受けられずに困難な日々を強いられる若者や子どもをどのように救っていくのかは、この国の未来にとっても非常に重要な課題であるといえます。
「ヤングケアラー」とは何か
ヤングケアラーとは、広い意味で家族のケアを強いられる若者や子どもを指します。
具体的には、家事や祖父母などの介護、幼い兄弟姉妹の世話、あるいは、親が精神疾患を抱えている場合にはその感情的なサポートまで行うことを強いられる、18歳以下の若者や子どもをヤングケアラーと呼んでいます。
2021年に厚生労働省が文部科学省と連携して実施した全国規模の調査の結果によると、中学生で5.7%、全日制高校生で4.1%、定時制高校生で8.5%、そして通信制高校では11.0%の生徒がヤングケアラーに当たることがわかっています。これは決して見過ごすことのできない結果であるといって差し支えありません。
何らかの事情によって、本来は大人が行うべきサポートを若者や子どもが担っている。
言い換えれば、大人が負うべき責任を若い世代が背負わされている。少子高齢化の進展や、共働き世帯の増加といった社会的背景もあり、若者や子どもがケアを行うことそのものに問題があるわけではありません。とはいえ、本来守られるべき若者や子どもの権利がケアの負担によって侵害されているケースは非常に多いものと推測されます。行政による支援も、未だ不十分な状況をあると言わざるを得ません。だからこそ、ヤングケアラーを巡る問題を見過ごしたまま通りすぎることはできないわけです。
「ヤングケアラー」の具体的な問題点
ヤングケアラーの何が具体的に問題なのかという点について、以下のような内容を指摘することができます。
・ケアに時間が取られるため学業に影響する
・家庭に拘束される時間が長く交友関係がうまく築けない
・心身両面で健康が損なわれる
・将来の進路にマイナスの影響がもたらされる
学生や生徒の本分とは、言うまでもなく学業に励むことです。また、心身両面での健康をしっかりと育むためには、学業に加えて部活動等にも取り組むことが好ましいといえます。学業や部活動等を通じて友人ができ、友人たちと交流を重ねることで、孤独を回避できるのはもちろん、良質な人間関係という将来に向けての基礎を築くことが可能となります。
しかしヤングケアラーは、ケアを強いられることで勉学に割く時間が減ります。部活動等には明らかに支障が出るといって間違いありません。友人との関係は制限され、孤独に陥り、家にこもる時間が増えることで体力の低下も懸念されます。家が不衛生な状態にあることで体調を崩すケースも少なくありません。何より、精神的な負担は様々な負の影響を引き起こし、そこに金銭面への不安などが重なると、希望の進路を断念するといった最悪の事態に陥ることも十分に起こり得ます。
ケアに要する現在の不安だけではなく、将来に至るまで長きに渡ってマイナスの影響が色濃く残る。ヤングケアラーの問題が深刻であることをご理解いただけるものと思います。
「大人の精神状態」に引きずられる若者や子ども
先程、ヤングケアラーは「親が精神疾患を抱えている場合にはその感情的なサポートまで行うことを強いられる」と書きました。私自身も、この点を非常に強く懸念しています。
親が精神疾患を抱えていると、家事を行えないので代行する機会が増えるだけではなく、不安定な心が引き起こす暴言などを長時間に渡って受け止めるといった、感情的なケアの負担が非常に大きい点に問題があります。精神的に成熟していない若者や子どもが、いくら実の親とはいえ、大人の不安定な言動に寄り添うのには限界があると言わざるを得ません。時には身の危険を感じることもあるでしょう。あるいは、親から目を離すのが不安で学校に通えないといったケースもあるかもしれません。そうした悪い意味での緊張感のなかで日々を過ごすと、今度はヤングケアラーの側に精神の不調を来たすおそれが生じてきます。
多くの場合、経済的にも厳しい環境下に置かれています。物心両面での貧困、その負の連鎖は本当に憂慮すべき問題であり、私たち大人が、何とかして解決していく必要があります。なかには、3世代に渡ってヤングケアラーであり続けるといった極端なケースも存在します。こうした苦しみを、何とかして軽減していくことが私たちには求められています。若い世代の未来は私たちの社会にとっての財産です。決して他人事ではありません。
「ヤングケアラー」の問題と向き合うために必要なこと
基本的には、ヤングケアラーの問題は行政の支援によって解決すべき性質のものであり、他人の家のなかに行政以外の第三者が入り込むことは容易ではないですし、そうするのが好ましいとも思えません。この記事にもそのような目的があるわけですが、ヤングケアラーの問題があることをさまざまな場で発信すること、世の中の意識をこの問題に対してしっかりと向けていくこと、そうすることで大きなうねりを作り、行政の問題意識を高め、支援の拡充へとつなげていく。それが必要な取り組みであると考えています。
さらに、専門医の立場で申し上げるならば、ヤングケアラーを生み出す大きな根の1つである、親の心の問題をしっかりと解決していくこと。その重要性をお伝えしなければなりません。
前項でも記載した通り、大人の心の不調は子の世代にも負の影響を与えます。子も同様に精神面での不調を来たしてしまうと、誰が誰をケアするのかが不明確になり、まさに混乱の状態へと陥ってしまいます。少しでも思い当たる点がある場合には、ぜひとも私たち専門医を頼っていただきたいと思います。
直接ケアを代わることはできないとしても、根本にある問題を取り除き、最終的にヤングケアラーを救うことは十分に可能です。これはくり返しお伝えしていることですが、心の不安を取り除くには、何よりも早期受診が重要です。そのために、私たち専門医は常に門戸を開いています。